世界で生産されるマグロのおよそ4分の1を日本人が消費しています

1975年に年間約90万トンだった世界のマグロ生産量は、2005年には約221万トンと大幅に増えています。刺身や寿司を食べる日本人にとってマグロは世代を問わずに人気のある魚で、世界の生産量のおよそ4分の1を日本が消費しています。

スペインは有名な産地

このように大量のマグロが日本に輸入されるようになったのは、戦後の経済発展で生活水準が向上したことと、マグロをとり、解凍する技術が進歩したことがあります。

最近のマグロ漁では、高性能の魚群探知機などが使用され、まぐろの位置を正確に知ることができます。とったマグロは船上で冷凍され、鮮度を保ったまま港に水揚げされ、日本まで空輸されます。外国のまぐろ漁船が直接日本の漁港へやってきて水揚げする場合もあります。2006年には台湾や韓国、中国をはじめ、世界の57カ国からマグロが輸入されました。

かつて、マグロのほとんどが漁でとられる天然物でした。しかし、1990年代に入ると、生け捕りした若い魚にエサを与えて太らせてから出荷する「畜養」が行われるようになりました。天然のまぐろではとれる時期や海域が限られますが、畜養は同じ数だけ取ったとしても、成長させてから出荷するので、結果的に多くの量を確保できます。

現在、オーストラリアやヨーロッパの地中海沿岸の国々(スペインなど)では、畜養によって主に日本向けのミナミマグロやクロマグロが盛んに養殖されています。しかし、捕獲時に生簀で育てるときに死ぬ魚がいたり、結果的に若い魚の乱獲に繋がったりするなど、様々な問題が指摘されています。

畜養が、刺身を好む日本にまぐろを輸出して、多くの収入を得ることができるため、瞬く間に世界中に広がりました。そのため、若い魚のとりすぎによって、クロマグロやミナミマグロは急速に数が減っています。現在は「大西洋まぐろ類保存国際条約」や「みなみまぐろ保存条約」などの国際的な条約によってとることができる量が規制されています。

しかし、大西洋まぐろの規制はまだ不十分であり、資源の悪化が心配されています。また、外国の漁船の中には、船の登録先を機関に加盟していない国に変更したりして、密かに漁を行うものも少なくありません。また、養殖場を別の国に移して、規制から逃れようとするケースもあります。

クロマグロやミナミマグロを1kg太らせるためには、10~25kgのエサが必要であるといわれており、そのため、畜養が広まったことにより、エサとなるいわしなどの乱獲も問題になっています。

マグロには、クロマグロ、ビンナガ、メバチなど様々な種類があります

日本国内で最も高級なのは高級な寿司店や日本料理店では「ホンマグロ」と呼ばれることが多いクロマグロです。英語では「青いヒレのマグロ」を意味する「Bluefin tuna」と言いますが、死ぬと黒く変色するので、日本ではクロマグロといいます。

太平洋のクロマグロは沖縄や台湾付近の海で生まれ、黒潮に乗って日本海や太平洋岸を北に向かい、北海道にまで回遊します。冬になるとエサを求めて冷たい海まで回遊(索餌回遊)します。若いクロマグロは日本から太平洋を横断してアメリカまで行き、また戻ってきます。

クロマグロの寿命は10年以上とされており、全長2.5メートル、体重300キロ以上にもなります。通常は1匹数十万円で取引されていますが、日本の大手寿司チェーンと香港資本の寿司店が築地市場の初セリで競い合って、1億5540万円(!)の値段が付いたこともあります。

今日でこそ最も脂が多い部分「大トロ」は値段も高く、最高級の寿司ネタのひとつとされていますが、冷蔵庫が一般家庭に普及するまではタイやヒラメのように腐りにくい白身の魚が高級とされていました。

クロマグロは大西洋にも生息しており、長年、太平洋に生息しているクロマグロと同じと考えられていましたが、遺伝子の研究等で近年は別の種類(タイセイヨウクロマグロ)として区分されるようになっています。

タイセイヨウクロマグロは寿命が20年以上と長く、全長4.5メートル、体重680キログラムを越える大物が釣れた記録もあります。地中海のタイセイヨウクロマグロは乱獲の影響で資源の減少が著しく、ワシントン条約に登録して国際取引そのものを禁止すべきかどうかが、国際会議で議論されるまでになっています。

クロマグロは北半球にしか生息してませんが、南半球には最近スーパーの魚売り場で目にすることが多くなったミナミマグロがいます。半世紀前から日本の漁船によるミナミマグロの漁が盛んだったため、現在は資源が少なくなっており、漁獲量が厳しく制限されています。

ビンナガはビンチョウあるいはトンボとも呼ばれ、胸ビレがトンボの羽のように長いのが大きな特徴です。体調は1メートルくらいで、体重も40キログラム程度と小柄です。赤道付近を覗いて世界の海に分布しており、クロマグロのように冷たい海にも生息しています。

ビンナガは他のマグロのように筋肉が赤くなく、ピンク色をしておりツナ缶によく使われ、世界中で食べられています。トロの部分はビントロと呼ばれ、近年は回転寿司の定番ネタとなっています。

メバチはクロマグロの仲間とキハダなどの熱帯種との中間のマグロで、世界の海に分布しています。漢字で書くと「目鉢」となるように目がお起きのが特徴で、英語でもBigeyeと呼ばれています。体調は1メートル程度ですが、寿命は15年以上とされています。

マグロにはDHAやEPA、タウリンなど豊富な栄養が含まれています

牛や豚などの肉とマグロをはじめとする魚肉ではそのタンパク質の栄養価は同じですが、一緒に取り込む脂肪に大きな違いがあります。マグロの油にはDHA(ドコサヘキサエン酸)やEPA(エイコサペンタエン酸)が豊富に含まれています。

マグロにはEPAとDHAが一杯

DHAは血液中の中性脂肪やコレステロールを減らし、善玉のHDLコレステロールを増やす働きがあります。また脳の神経機能を高めて、脳の老化を予防する働きもあります。記憶力や学習能力の向上、認知機能の低下の予防にも役立つため小さい子供からお年寄りまで積極的に摂取したい栄養の一つとなっています。

EPAは血小板の凝固を防ぐ働きや血栓を溶かす働き、血液中の中性脂肪を減らす働きがあります。血流を促進する働きで、脳血栓や脳梗塞の予防、また脂質異常症や高血圧の改善に役立つとされています。これらの脂質はマグロのトロなどの脂身に多く含まれています。

DHAやEPA以外にもマグロは豊富な栄養を含んでいます。マグロの赤身に含まれている鉄分は貧血の予防、解消の効果があります。またビタミンEには血行を促進し、女性の美肌、肩こり・腰痛などに効果があります。

魚のタンパク質や、血合いに含まれているタウリンには血圧を正常にコントロールする作用があることが知られています。最近の研究でタウリンには貧血予防、肝臓の解毒作用の強化、強心作用、不整脈の改善、血中コレステロールの減少効果、インスリンの分泌促進など様々な機能が報告されています。